荒井聖己「要素的復元を設計手法とした近代化産業遺産の再生・活用計画の提案 -旧志免鉱業所竪坑櫓の活用を対象として-」
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本計画では「要求された機能」を満たす為の建築の形態やそのデザインとして、「要素的復元」を行った。
旧志免鉱業所竪坑櫓という「過去の建築」に対する「新たな建築」の設計要素として、既に解体された建築を用いることで、志免鉱業所の歴史を紙面上の資料としてではなく、実体や空間、またそれらが形作る風景として、歴史伝承の場にふさわしいものになると考える。また、このような「過去の建築」の保存活用事例に際し、「過去の建築」を主体としながら「要求された機能」を両立させるための新たな設計手法として確立できたと考える。
1.計画背景
1-1.近代化産業遺産の存在
歴史的・文化的に保存価値のある建築物が、老朽化や経済的理由から静態保存または放置されている現状がある。その顕著な例として筆頭に挙がるのが近代化産業遺産である。保存価値のある建築物は景観としてただ保存するのではなく、機能を持った建築物として再生・活用されるべきであり、静態保存は建築の保存方法として十分とは言えない。
1-2. 解体された建築の文脈
近代化産業遺産の多くは複数の建築物によって構成されているものが多い。一方その中で全ての遺構が保存または再生・活用されているものは少なく、
①主要なものを残し既に解体されているケース
②関連施設全てが解体されているケース
に大きく二分される。産業遺産の再生・活用事例では①が該当するが、この内解体されたものに対する建築的手法が成されたものは少ない。
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2.計画目的
2-1.近代化産業遺産としての再生・活用
本計画では、日本において現状で静態保存・放置されている近代化産業遺産を調査後、再生・活用の必要性を評価しその再生計画および動態活用手法を提案することを目的とする。
2-2. 解体された建築の文脈継承的提案
本計画では、本来複数の産業施設で構成されていた近代化産業遺産に対し、その歴史的事実を展示物のみで伝えるのではなく、今は無き当時の情景を実体として彷彿とさせ、過去の空間体験を可能にするような提案を行うことを目的とする。
3.近代化産業遺産の現状調査
3-1.活用状況の調査
この調査は、日本の近代化産業遺産の保存・再生の現状を明らかにし、日本の近代化産業遺産の総数、活用状況、分類を行い、現状を把握する。認定機関および団体ごとの各項目の件数を示すため、重複に関しては考慮していない。「動態保存」は「静態保存」「放置」「解体」の3項目に対し、相対的な数こそ少ないが、歴史的・文化的保存価値のある建築物であるということを考慮すれば問題だと考える。
3-2.計画対象選定の為の調査
本計画内で再生・活用を行う近代化産業遺産を決定するための調査を行う。産業遺産の基本的な情報とその遺産を構成する個別の建築物を記載し、それと共に選定基準となる3点の評価項目(①保存状態、②再生活用計画の有無、③公的評価)について、それぞれ調査を行う。この結果、国内においては30件の静態保存・放置されている近代化産業遺産の事例が挙げられ、前記3点の評価項目を基にした選定の結果、本計画では「志免鉱業所関連遺産」を対象とした設計提案を行う。
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4.既存建築物
4-1.旧志免鉱業所竪坑櫓
旧志免鉱業所竪坑櫓は糟屋炭田のほぼ中央に所在し、艦船用石炭及び海軍工廠等で使用する工場用石炭の採掘施設として、日米開戦直後の1941年12月28日に建設着手し1943年5月10日に竣工した。本櫓の真下に垂直に掘られた深度430m、直径7mの穴(竪坑)の最底面である鉱床と地上間で、石炭・硬材(ボタ)・鉱員を昇降させる「ケージ」の動力たる機械を設置するための建築物である。近代建設技術史的価値の高さからも重要文化財に指定され、志免町のランドマークとなっている。
4-2.「旧志免鉱業所竪坑櫓保存活用計画」
平25年3月に「旧志免鉱業所竪坑櫓保存活用計画』(以下、「保存活用計画」)が志免町によって作成されている。ここでは遺構の現状と保存部位、公開内容、資料館建設等の検討は記載されているが、その具体的な建築の手法等については明確になっていない。
本計画ではこの「保存活用計画」を基本方針とした上で、より具体的な動態保存に向けた建築及びその設計手法を提案する。
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5.計画概要
5-1.計画の基本方針
「保存活用計画」では、遺構の現状と保存部位・公開内容・資料館建設等の検討は記載されているが、その具体的な建築の手法等については明確になっていない。本計画ではこの「「保存活用計画」を基本方針とした上で、より具体的な動態保存に向けた建築及びその設計手法を提案する。またこれを「志免町歴史文化資料館計画」と称する。
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5-2.「志免町歴史文化資料館計画」
旧志免鉱業所は、志免町を形作ったという意味で、町の歴史を語る上で最も重要な施設である。現在その痕跡は竪坑櫓と第八坑関連地区のみであり、これらは遺産としての保存はされているが、地域の文化的資源としての活用は十分であるといえない。施設用途は、複合文化施設とする。当計画においては、竪坑櫓および第八坑関連地区に関する資料館機能と、志免町民の日常的な地域活動・地域交流が可能な機能を一体に、町の歴史と文化を創造・発信する拠点としての計画を行う。また隣接する福祉施設、多目的広場や周辺でのイベント等との連携も図る。
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6.設計手法
6-1.「要素的復元」
本計画での近代産業遺産再生・活用するための設計手法として、既に解体された建築の形態や構成を新たな建築の構成要素として復元する設計手法、これを『要素的復元』として提案する。『要素的復元』は、その歴史的事実を展示物のみで伝えるのではなく、今は無き当時の情景を実体から彷彿とさせ、過去の空間体験を可能にする点で有意義であると考える。
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6-2.要素の適用方法
抽出された要素は以下の適用シートに基き、「要素的復元」を行う。手順は以下の通りである。
①ゾーニング後、『新築』の諸室が要求する条件と、『解体された建築』に一致する項目、適用操作を行う項目の整理を行う。②『新築』に適応させる為の操作を、『解体された建築』に対して行う。③②での操作を行い『新築』に適応させたモデルを作成する。またこの時『解体された建築』の復元された要素を整理する。赤字はゾーニング以降に新規追加・変更された要素である。
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7.設計概要
7-1.「要素的復元」の適用
本計画では旧志免鉱業所竪坑櫓の再生・活用の手法として、「要素的復元」を行う。既存建築物に関連する施設を要素的に復元することで、既存建築物およびその外部に要求されていた資料館機能を内包しながら、既存建築物と共に始めから既存の施設であったかのような風景を作り出す。ここでは新旧の建築を対比させるのではなく、同調するようにしつつ要求された機能に最適化された建築によって、既存建築物の再生・活用を行う。
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7-2.「要素的復元」の適用
・エントランス棟
旧機関場。新築の要求する規模の一致により決定。RC造、煉瓦の外壁はそのままに、柱スパンを維持したまま平面計画を行い、一階は外部空間として発電機器等が置かれていたが、ここに外壁を挿入し室内化を図った。この建築では平面形状・立面・構造の要素を復元した。
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・第一遺構展示棟
旧第八坑本卸坑口転車機。新築の要求する機能の関連性および構造の一致により決定。現在旧志免鉱業所の遺構となっている第八坑本卸坑口の展示施設として、柱スパン・構造構成を引用し展示空間として再構築(ヴォリューム・床・外壁の挿入)を行った。棟中央に遺構があり、それを建築全体で囲むような構成になっている。この建築では第八坑本卸坑口の施設という関連性・構造形態の要素を復元した。
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・第三遺構展示棟
旧第八坑連卸坑口操作場。新築の要求する機能の関連性の一致により決定。第八坑連卸坑口の展示施設としての機能させるため基礎部分を空間化し、また上部構造体を展望台として、機能の追加を行った。ここの建築では第八坑の施設という関連性および形態的要素を復元した。
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